大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)594号 判決

大阪市〈以下省略〉

控訴人

株式会社ナショナルエイデン(旧商号 株式会社日本貴金属)

右代表者代表取締役

Y1

同市〈以下省略〉

控訴人

Y1

同市〈以下省略〉

Y2

大東市〈以下省略〉

Y3

池田市〈以下省略〉

Y4

控訴人ら訴訟代理人弁護士

井門忠士

信岡登紫子

泉南市〈以下省略〉

被控訴人

右訴訟代理人弁護士

中山厳雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人らの敗訴部分を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二主張

次のとおり訂正、付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一四枚目表七、八行目の「一〇〇万」及び「二〇〇万」を「一〇〇万円」及び「二〇〇万円」と、一六枚目裏五行目の「問題」を「控訴人会社は問題」と各訂正する。

2  被控訴人

(一)  「香港純金塊取引」のうちオーバーナイト取引はプレミアム、保管料を支払うことによって金地金の受渡しを将来に延ばしていくことができる取引であるが、将来のある時期には必らず決済をしなければならないこと、途中で転売、買戻による差金決済ができること、一定額の保証金によってその一〇倍の取引ができること、追加保証金制度があること等によると、先物取引というべきである。

(二)  海外商品先物取引は一般顧客にとって極めて危険な投機性の強い取引である。従って、右取引の受託業者は顧客と取引をするにあたっては、海外商品先物取引に関する基礎的事項、重要事項並びに右取引の高度の危険性、投機性を告知し、海外先物市場における相場の変動等右取引に関する事項について不実のことを告げること、利益の生じることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供すること、安易な利益保証をすること等は厳に慎しむべきである(「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」に定める受託業者の義務は、同法施行前においても、信義則上受託業者に課せられていたというべきである。)。然るに、控訴人らは被控訴人に対し本件取引の基礎的重要事項の告知をなさないばかりか、根拠のない利益保証、元金保証をなし、被控訴人の判断を誤まらせて本件取引を締結させ、受渡代金名下に金六〇〇万円を詐取した。

(三)  控訴会社は被控訴人の注文を宝発金号に通さず、自らが相手方となって取引を成立させる、いわゆる「のみ行為」を行い、被控訴人から右六〇〇万円を詐取した。

(四)  控訴会社は「のみ行為」を行なっていないとしても、控訴会社の行なう取引は、いわゆる「客殺し」の方法により顧客の損失において利益を貧る違法、不当な取引である。すなわち、控訴会社は宝発金号に対して顧客名ではなく自己名で売買の注文を出すが、同時に必らず顧客の建玉に対する自己の向い玉を建てている。従って、損益の決済は、控訴会社と宝発金号の間では常に相殺勘定となるため、必然的に控訴会社と顧客の間でなされることになる。しかし、控訴会社と顧客の利害は常に相反するため、顧客の益計算となれば、控訴会社は顧客に利益が出ていることを隠し、あるいは決済を延ばして取引を継続させ(顧客は十分な知識・情報をもたないため控訴会社の指示どおり売買を行なう)、顧客の損計算になると、次々と受渡代金、不足代金の支払を迫り、控訴会社の建てた向い玉の利益を取得するのである。このように控訴会社の行なう取引は「香港純金塊取引」に名をかりた詐欺行為である。

3  控訴人ら

(一)  請求原因二1の事実(但し、控訴会社が香港ゴールドトレーディングユニオンの代理店であるとの点を除く。控訴会社は独立の取次業者である)は認める。

(二)  同二2の事実中、控訴人らが被控訴人及びその妻に対し不実の事項を告げ、詐欺的言動を弄したとの点は否認する。

(三)  同二3、同三、被控訴人の当審における主張は全て争う。

(四)  香港金銀業貿易場における取引は現物取引であって先物取引ではない。すなわち先物取引とは将来の一定の時期において売買の目的になっている商品及びその対価を現に授受するよう制約される取引をいうが、同貿易場における取引は商品と対価を現に授受するよう制約される一定の時期を定めない取引である。被控訴人は同貿易場における取引は差金決済ができるから先物取引であると主張するが、現物取引市場においても多数当事者間で同時決済を一定間隔で行うため差金決済をするのが通例である。

(五)  控訴会社は独立の取次業者として顧客の注文を宝発金号に取次いでいるが、「香港純金塊取引」は先物取引ではなく、また、国内商品の取引でもないから、商品取引所法の規制を回避する脱法行為には該らず、また、海外商品先物取引の受託業務はなんら禁止されていないから、公序良俗にも反しない。

(六)  控訴人らは被控訴人と本件取引を始めるにあたり、本件取引の重要事項の告知は口頭によりまた契約書類の交付によって、これを十分に果している。控訴人らが被控訴人に対し利益が確実であるとか損失を補填する等説明したことは一度もない。

第三証拠

原、当審記録の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所の判断は次のとおり付加、訂正、削除するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表五行目の「証人」から同七行目の「及び」までを「請求原因二1の事実(但し、控訴会社が香港ゴールドトレーディングユニオンの代理店であるとの点を除く)は当事者間に争いがない。右当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲第一ないし第七号証、第八号証の一ないし三、第九、第一〇号証、第一七ないし第二〇号証、第二八号証、乙第一ないし第四号証、第一四号証、第二八ないし第三〇号証、当審における証人Aの証言、同控訴会社代表者Bの本人尋問の結果(但し、証人として証拠調を実施)、弁論の全趣旨により真正な成立を認める乙第八、第一二、第一三、第一八、第一九、第二二、第二五号証、原当審における証人Aの証言、当審における控訴人C、右Bの各本人尋問の結果の一部、原当審における被控訴人Xの」と訂正し、同一〇、一一行目の「肩書」から「株式会社で」までを削除し、同一二行目の「宝発金号」を「香港金銀業貿易場の正会員である宝発金号」と訂正し、同裏四行目から六行目の括弧書部分を削除する。

2  同三枚目裏九行目の次に「香港純金塊取引」とは、控訴会社が顧客から金地金の取引の委託を受けると、同ユニオンに対し控訴会社名で注文を入れ、同ユニオンは右注文を宝発金号に通し、宝発金号が同貿易場において右注文にかかる取引を成立させるものである。同貿易場における金取引は金地金一〇〇テール(三・七四三キログラム)を一ユニットとし、ユニット単位で行われるが、代金の支払と金地金の引渡が即日なされる現物取引と代金支払と金地金の引渡が翌日以降に持越されるオーバーナイト取引がある。オーバーナイト取引においては同貿易場に対して保管料、プレミアムを支払わなければならない。同取引においても、将来のある時期に取引は必らず清算されなければならないが、途中で転売、買戻による差金決済をすることができる。控訴会社は顧客から一ユニット単位で注文を受け、一ユニット当り一〇〇万円の受渡代金を徴し、取引を終了させるときは新規に反対売買の注文を受けて差金決済をする。」を付加する。

3  同五枚目表五行目の「及び」を「及び『香港純金塊取引顧客承諾書』、」と、六枚目表七・八行目の「に基づき」を「を有利に運用し、又」と、七枚目裏一〇行目の「及び」を「及び『香港純金塊取引顧客承諾書』、」と、八枚目表一〇行目の「認められ」を「認められ、右認定に反する甲第一七ないし第二〇号証、成立に争いのない乙第三八ないし第四三号証の各供述記載並びに控訴会社代表者B、控訴人Cの各供述は甲第二八号証の供述記載並びに証人A、被控訴人Xの各供述と対比してにわかに措信することができず、他に」と各訂正する。

4  同八枚目裏一一行目の「右認定」から九枚目裏二行目の「態様は」までを「右認定の事実によると、控訴会社が被控訴人と行なう取引は差金決済によって終了するオーバーナイト取引であって高度の投機性をもつものであるのに、控訴人らは被控訴人に対し右取引について正確かつ詳細な知識、情報を提供せず、却って、」と、同五行目の「顧客の」を「その」と、同一二行目の「右取引は」から一〇枚目表一行目の「あるから」までを「控訴会社は社会的に是認しえない不当な方法によって本件取引を結んだものであり」と各訂正する。

5  被控訴人は控訴会社の行なう取引は先物取引であるから、商品取引所法の規制を回避する脱法行為であると主張するが、海外商品市場における先物取引の受託等を業とすることはなんら禁止されていないのであるから(「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」参照)、右主張は採用し難い。従って、訴訟会社の業務それ自体が公序良俗に反すると認めることもできない。又、被控訴人は、控訴会社が「のみ行為」を行なっていたとか「客殺し」の方法を用いていたと主張するが、本件全証拠によっても右主張を肯認するに足りない。

二  よって、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤野岩雄 裁判官 仲江利政 裁判官 蒲浦範明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例